1989年1月7日

天皇のご逝去に際して

神父様、修道院長様

第2バチカン公会議は、他宗教との対話を推進するよう教えています。この精神をもって、神道を正しく理解し、神道の教える正しい宗教心に対して尊敬を払うことは大切ですが、日本古来の神道と、明治以降、特殊なかたちで天皇制と結びついた「国家神道」とは明確に区別して考えなければなりません。
国家神道の時代には、日本人のみならずアジア諸国の人々までが天皇とその国に対する絶対の従順を強いられましたが、このように、人間や人間の作った制度を絶対化することは、それがいかなるものであっても、私たちとしては認めることはできません。
敗戦後、新憲法のもとで、主権は国民のものとなり、天皇は、国の象徴、国民の統合の象徴とされました。
しかし、過去のいまわしい時代に逆もどりする危険を絶えずはらんでいます。司教団は、1980年、靖国神社の国営化に関する法案が国会に提出されるという状況において、それに反対する意思を公にしましたが、それは、この危険を感じていたからですし、今もそれを感じています。
そこで、昭和天皇の逝去、新天皇の即位に際しては、次の点に配慮していただければ幸です。
1教会として、天皇個人の永遠の安息を祈ることはふさわしいことです。
2教会は、現行憲法における天皇制の是非について一つの立場をとりません。
したがって、日曜日のミサを追悼ミサにしたり、特別の行事をしたり、政府、自治体、地域、各種団体などの行事にカトリック教会として名を連ねたりしないことが望ましいです。
3しかし、信徒に対しては、具体的な行動について指示をせず、各自の良心の判断と心情を尊重してください。
4なお、教区司教の指示があるときは、これに従ってください。
民族の固有の文化、伝統、生活習慣を尊重し合わなければなりません。民族的な統合秩序を持つ共同体としての国家の存在を認めることも大切です。しかし、少数であっても日本に住む他の民族の方々とともに生きていく道を探すことが日本のこれからの課題です。
昭和天皇の葬儀、新天皇の即位、それをめぐっての政治、社会の動きの中で、被造物を神格化したり、相対的なものを絶対化したり、特殊なものを普遍化したりすることのないよう注意しましょう。そして、すべての民族、国家とともに世界の平和に貢献する決意を新たにしましょう。
昭和天皇のご逝去に際して

日本カトリック司教協議会
常任司教委員会