内閣総理大臣 岸田 文雄 様
法 務 大 臣  古川 禎久 様
Prot.no.SC−JP22-11
2022年7月26日
日本カトリック正義と平和協議会
会長 ウェイン・バーント司教
2022年7月26日の死刑執行に対する抗議声明
私たち「日本カトリック正義と平和協議会」は、2022年7月26日に、東京拘置所に収容されていた加藤智大さん(39歳)に死刑が執行されたことに対して、深い哀しみを覚えるとともに強く抗議します。なぜなら、国家の手によって、その尊いいのちが奪われたからです。
2016年7月26日未明、相模原市の知的障害者施設において、未曽有の殺傷事件が起きました。私たちは、被害に遭われた方々のために祈るとともに、「生きる価値のないいのち」など決してないのだ、という思いを新たにしていた矢先の死刑執行でした。2018年7月26日には、オウム真理教関係の死刑囚6名が一斉に処刑されました。国家が、あえてこの同じ日を選び、「生きる価値のないいのち」と認めた存在を再び抹殺したことに戦慄を覚えます。
カトリック教会は、イエス・キリストが示した福音の光によって、すべての人のいのちは尊く、たとえどんなに重い罪を犯した人であってもその人格の尊厳は決して失われないと固く信じています。「すべてのいのちを守る」という自らの使命に照らし、「人格の不可侵性と尊厳への攻撃」である死刑は許容できないと教えるのみならず、全世界で死刑が廃止されるために取り組むという決意を表明しています(『カトリック教会のカテキズム』2267、ローマ教皇フランシスコの回勅『兄弟の皆さん』263以下参照)。私たちは刑罰制度の厳格な適用により、死刑以外の方法で、犯罪の再発を防止し、社会の安全を確保することが可能になってきた今の時代、人間のいのちの尊さという原点に立って、死刑制度はその存在理由をもはや失ったと考えているのです(日本司教団メッセージ『いのちへのまなざし【増補新版】』79 参照)。
昨日、ミャンマーで数十年ぶりに死刑が執行されました。それに対して、国際社会からは多くの懸念と非難の声が上がっています。日本政府も言明しているように、「国際社会における更なる孤立を招く」ことが深刻に憂慮されます。しかし、その舌の根も乾かぬうちに、日本政府が同じ轍を踏み、国際的な地位を自ら貶める暴挙に至ったことを、私たちは「深刻に憂慮」いたします。死刑という暴力によっては、決して平和な社会を築くことはできません。むしろ時代に逆行するその野蛮さが、新たな暴力を生み出すことになるからです。
いのちの尊さという真理をイエス・キリストから学んだ私たちは、回心と赦し、そして真の和解へと繋がる希望を大切に考えています。それはたとえ困難ではあっても、決して不可能ではないからです。私たちは教皇フランシスコや全世界のカトリック教会と声を合わせ、また、人権を尊重する世界中の善意の人々と思いを一つにしながら、残酷でいつくしみに欠ける刑罰である死刑の廃止と、それに向けた執行の即時停止を強く訴え続けます。