声明文「女性国際戦犯法廷20周年にあたっての政府への要望」(2020.12.12)を発表しました

内閣総理大臣
菅 義偉様

日本カトリック正義と平和協議会会長
勝谷太治

 

声明文 女性国際戦犯法廷20周年にあたっての政府への要望

2000年12月8日から12日まで、東京で、日本軍「慰安婦」制度を裁く女性国際戦犯法廷が開かれ、今年20年目を迎えました。

いわゆる日本軍「慰安婦」が東アジアに広く存在したことは、被害の当事者や関係者の声、文学作品などによって知られ、韓国では1980年代から独自の調査も行われてきましたが、公に問題となることはありませんでした。しかし、1991年、キム・ハクスンさんが韓国で初めて「慰安婦」制度の被害者として公に名乗りを上げたことから、その法的、人道的、歴史的責任を日本政府に求める声が国際的に高まるなか、98年、アジア慰安婦連帯会議第5回会議(ソウル)席上で、日本からの会議の参加団体である「女性と戦争への暴力」日本ネットワーク(VAWW- NETジャパン、現VAWW- RAC)が国際民間法廷の開催を提案し、加害国日本で開催することが決定しました。

当日の法廷には、被害者64人を含め、海外から約400人が参加、4日間を通して、連日1000人以上、のべにして5000人以上が傍聴し、法廷開催から一年後の2001年12月、オランダのハーグで最終判決が下されました。判決では「慰安婦」制度は人道の罪であり「本質的に国家が認めた強かんと奴隷化」であったとし、昭和天皇と9名の日本軍関係者に有罪判決が下されました。日本国政府に対しては、被害者への賠償責任を認め、さらに関係資料の保存と公開、教科書への記述、ジェンダー教育の実施などの勧告を行いました。また旧連合国に対しても、「慰安婦」制度の事実を知っていながら東京裁判で処罰の対象としなかったことにジェンダーの偏りがあったことと、戦後も捜査や訴追をしなかったことの誤りを認めるよう、勧告しています。

法廷開催期間中には、「現代の紛争下の女性に対する犯罪」国際公聴会も開催され、今日まで続く紛争下での性暴力について、グアテマラやソマリアなど、世界の紛争地17箇所の女性たちが証言しました。紛争下では必ずと言っていいほど性暴力が行われながら、それらは処罰の対象になってきませんでした。女性国際戦犯法廷は、日本軍「慰安婦」制度が処罰されず、裁かれもしなかったことと、今なお続く続く紛争下の性暴力が放置されてきたこととは同一線上にあるとし、国際法においてさえ、ジェンダー正義が欠落していたことを指摘しました。

あれから20年が経ちました。戦時下ばかりではなく、日常生活においても性暴力はたびたび起きながら、処罰を免れてきたことが、#Me Too運動などによって問題にされるにようになったのは、つい最近のことです。カトリック教会内でも、聖職者の性暴力が数多く起きていたのに、表沙汰にされることさえ、今世紀に至るまでありませんでした。これらのこともまた、日本軍「慰安婦」制度が処罰されてこなかったことと同一線上にあるものと私たちは考えます。性暴力被害とはいかなるものであるのか、その暴力の実態とこれを可能にし、かつその隠蔽を可能にしてきた背景について、いまだ正しく認識され、対処されているとは言えず、ジェンダー正義は実現していません。私たちはだからこそ、ここでもういちど、女性国際戦犯法廷の結論を社会と日本政府に訴えなければならないと考えます。

ところが、日本軍「慰安婦」問題は解決はおろか、今ではこの問題に触れることすら、日韓関係を悪化させる要因であるかのように、日本社会の一部では考えられているようです。それは、2015年12月、ソウルで行われた日韓外相会談席上で日韓共同声明が発表され、当時の岸田文雄外務大臣が、ソウルの日本大使館前にある、慰安婦にされた少女を象った「平和の少女像」は「適切に移転がなされるものだと認識」していると語り、これもって慰安婦問題に「終止符を打った」と述べたことに端的に現れています。

現在、韓国政府は日韓合意に法的拘束力を認めていない一方、日本政府は日韓外相会談の際の日韓共同声明をもって慰安婦問題は「終止符が打たれた」と認識し、世界中のどこであれ、「平和の少女像」が公共空間に置かれることを認めないことを、基本方針としていることが、外務省「慰安婦問題についての我が国の取り組み」からは伺われます。

性暴力は、「性」という、人間の人格にかかわる根源的な要素に身体的精神的両側面から攻撃を加えた深刻な犯罪です。これを組織的に行った「慰安婦」制度は、国家的犯罪です。日本政府が取るべき態度は、事実を隠蔽したり、「済んだことだ」と忘却したりすることではなく、むしろ、この負の歴史の継承を恐れないことです。日本政府は、「平和の少女像」を撤去するどころか、どこまでも向き合い、記憶し続けるために努めるべきです。

日本政府に求めます。

一、日本軍「慰安婦」制度が「本質的に国家が認めた強かんと奴隷化」であったことを認めること。

一、日韓合同宣言には、被害当事者の声が不在です。被害者と直接向き合い、被害者が望む形で謝罪し、被害者が望む形で賠償を行なうこと。

一、「慰安婦」制度のようなことが二度と再び起きないように、日本軍「慰安婦」制度を歴史の中に位置付け、この記憶を継承するために尽力すること。「平和の少女像」の撤去のために他国やその自治体に介入しないこと。

<補足事項>

カトリック教会の内部には、聖職者による数多くの性的虐待があったことが、今世紀に入りようやく明らかにされ、現在、世界的に深刻な問題になっています。私たち日本カトリック正義と平和協議会が、日本軍「慰安婦」問題について、上記のように日本政府に訴え、この立場を広く社会全体に明らかにすることは、同時に、カトリック教会自身に、性的虐待の事実と向き合い、事件の真相を公にし、被害者に謝罪し償い、二度と再びこのようなことが起きないよう、公式の記録に書き留めることを求めることでもあることを、ここに明記します。

しかしながら、その一方で、女性国際戦犯法廷の開催に、当時のカトリック教会できわめて高い関心が持たれたことも、最後に触れておきたいと思います。

女性国際戦犯法廷は、一人二千円のカンパを1万人から集めようという草の根のキャンペーンによって実現しました。そしてその基金賛同団体298団体のうち、じつに89のカトリック関係団体(日本カトリック正義と平和協議会のほか、修道会、修道会共同体、小教区など)が名を連ねました(2000年11月27日段階)。また、法廷開催の主体となったVAWW- NET ジャパン事務局が、東京都江東区潮見の日本カトリック会館内に置かれ、カトリック修道女たちも開催実務に積極的に携わりました。

その背景に、女性国際戦犯法廷の開催に尽力した、高嶋たつ江さん(故人)というひとりのカトリック信徒がいたことは、否定できないことでしょう。高嶋たつ江さんは、カトリック東京教区正義と平和委員会のメンバーであり、女性国際戦犯法廷国際実行委員会共同代表3人のうちの一人となった、フィリピンの女性の人権アジアセンター(ASCENT)代表であるインダイ・サホールさん(他は、尹貞玉さん:韓国挺身隊問題対策協議会代表、松井やよりさん:VAWW- NET ジャパン代表)とともに、日本軍「慰安婦」制度の被害者となったフィリピン人女性たちを長く支え、VAWW- NET ジャパンの初代事務局長を務めました。日本軍「慰安婦」制度を国際法廷を開いて裁く最初の発案者の一人は、高嶋さんでした。

さらに、VAWW- NET ジャパン代表として女性国際戦犯法廷開催のリーダーシップを取り、法廷の開催から2年後の2002年12月に逝去された松井やよりさんの意思を継承する「女たちの戦争と平和資料館」(wam 2005年開館)が、カトリックの国際的平和団体であるパックスクリスティ(本部 ブリュッセル)の2007年平和賞を受賞しました。

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