1985年7月16日
意見書
法務大臣 嶋崎 均殿

カトリック中央協議会、社会司教委員会は昨年の2月28日に中曽根内閣総理大臣、住法務大臣、田川自治大臣に外国人登録手続の簡素化と、外国人登録証常時携帯規定の廃止を要望する建議書を送りました。建議書の内容は「外国人登録法は16歳以上の外国人に指紋押捺を義務づけているもので、在日外国人をあたかも犯罪人予備 軍であるかのように、扱うものです。さらに、この対象になる大多数は在日外国人の約86%を占める在日韓国人・朝鮮人です。
指紋押捺は在日韓国人・朝鮮人に侮辱感をもって受けとられ、現在までに拒否者は150名を超えています。指紋押捺は日本人全体がとりわけ在日韓国人・朝鮮人兄弟姉妹に与えて来た歴史的不正に、加えられる罪のひとつだと考えられます。キリストの「『私が、あなたたちを愛したように互いに愛し合え』という言葉を在日韓国人・在日朝鮮人と日本人の真の友好と信頼関係の樹立のための具体的な戒めと受けとめ、その障害となっている、指紋押捺の廃止を要望します」というものでした。
また、指紋押捺制度の廃止を要求して自ら押捺拒否を行っている人びとへの支援の表明と日本政府に対し、外登法の改正を求めて、わたしたちは署名運動を行ってきました。7月8日、押捺拒否者である川崎・浅田町教会のエドワード・ブジョストフスキー神父が父親の葬儀をとり行うために一時帰国するための再入国許可を求めたところ、法務省東京入国管理局横浜支局、川崎出張所において法務省の審査の結果を7時間待たされ、ついに押捺せざるを得なかったことについて、深く遺憾の意を表します。
国会では「人道上、その他、真にやむを得ない場合には押療拒否者にも出入国を認める」旨が答弁されているにもかかわらず、肉親の死という人道上の緊急事態にあたり、適切な配慮もなく長時間待たせて、押捺をせまる形となった法務省の対応は誠に人格を無視したやり方であると言わざるを得ません。
エドワード神父は22年前、故国を去って来日し、以来さまざまな不正、不当な圧迫や差別をなくすための運動にかかわってきましたが、押捺をするにあたっての声明文の中で次のように述べています。「私は1982年5月8日、永住許可をもらったが、日本を愛するが故に、反日感情を起こす一切の原因をなくしていきたいため、死ぬまで日本においてキリストの心を行動に現したいという理由で、その永住許可を求めたわけです。従って指紋押捺を拒否したという理由で告発されないだけでなく、国外追放されないように、また85才のオヤジに会いに行きたいので、再入国不許可にならないようにお願い致します。」
また建議書の中でも、わたしたちは「憲法が示す通り『国際社会において名誉ある地位を占める』ことを念願する国民にとって在日外国人のとり扱いについては細心の配慮をもって、その人格の品位を尊重し、誠実さと相互信頼を実際の手続きと行動の面において示すことは、何よりも大切なことであります」と述べました。
今回のような事件は「国際社会において名誉ある地位を占めること」を念願するならば逆効果をもたらすようなことではないでしょうか。
ここにあらためて一日も早く外国人登録法を改正し、指紋押捺制度を廃止されることを強く要望します。また同じ精神に基づき外国人登録手続の簡素化と外国人登録証常時携帯制度の廃止を要望します。

日本カトリック正義と平和協議会
会 長 相馬信夫 名古屋教区司教
担当司教 濱尾文郎 横浜教区司教