1986年5月19日

要望書
―ペトロ金明植氏の在留更新を求めて―

法務大臣 鈴木省吾殿

1984年2月私どもは、内閣総理大臣、法務大臣、自治大臣にあて建議書を提出し、日本が多くの韓国人、朝鮮人の兄弟姉妹に不正と苦しみ、死までも与えた歴史的事実を正直に直視し、この罪の許しを乞い、回心と償いの精神を心に刻み信頼と友好の関係の樹立にいそしむためには、まず障害となるものを積極的に除去しなければならないこと、指紋押捺制度がこの障害の一つであること、を訴え、外国人登録法の改正と、指紋押捺制度の廃止を強く要望いたしました。
憲法が示すとおり、「国際社会において名誉ある地位を占める」ことを念願する国民として在日外国人については、細心の配慮をもって、その人格の品位を尊重し、誠実さと相互信頼の実を実際の手続きと行動の面において示すことは、何よりも大切なことであります。
韓国の民主化運動に献身し、現在国際基督教大学において博士課程をおさめるペトロ金明植氏は、日本政府が、世界市民との平和共存と、自由と人権を保障するために、平和精神と人権精神に反する民族差別と人権侵害の法制度の撤廃を求めて、押捺を拒否されました。「歴史と良心の前で、世界の自由市民の前で、日本の平和のため、アジアと世界の平和のために、そして21世紀の世界の人びとが平和に共存するために」あえて指紋押捺を拒否されたカトリック者ペトロ金明植氏の行動は、「法 (安息日)は、人間のためにあり、人間が法(安息日)のためにあるのではない」と 説くキリストの教えを実践する信仰の行いであり、わたしたちはそれに深い感動をおぼえるものです。信仰と良心に根ざす人間的行為の意味を人間として理解することなく、また日本という国の良心に語りかけるペトロ金明植氏らの叫びに耳をかたむけることなくして、わたしたちは国際平和や共存について語る資格があるのでしょうか。
金明植氏の配偶者は、日本国籍を有し大学で教べんをとっていますが、法務省が6 月19日をもって金氏にたいし国外退去措置をとれば、夫と妻子がひきさかれる事態となり、これは重大な人権侵害と言わざるをえません。
詩人である金氏が、はじめて日本語で書いた詩の中で「ともに生きる町はないんですか」と問いかけています。わたしたちは、この願いと訴えを心から支持し、金明植氏にたいし、日本政府が、国連の人権宣言と憲法の精神に沿い在留許可の延期を認めることを強く要望いたします。

日本カトリック正義と平和協議会
相馬信夫
濱尾文郎