1986年2月19日

外登法問題等に関する要望書

法務大臣
鈴木省吾殿

1986年1月7日付けで、法務大臣に宛て、私どもが指紋押捺拒否者に対して国外退去措置を講ずる法的根拠を明らかにしていただきたいという趣旨のご質問状を提出いたしましたところ、1月24日付けで、貴省入国管理局長小林俊二殿より、この問題に関するご説明を文書でいただきましたことを感謝いたします。
その中で、「当該外国人の在留を認めるかどうかの決定は法務大臣の裁量に委ねられ ている」というご見解をお示しいただきましたが、これは行政措置のあり方のご説明であって、「法的根拠」のご説明ではないと思います。
また、ロナルド藤好、キャサリン森川、崔昌華などの諸氏に対しては在留許可更新と指紋押捺拒否とを別個のものとして措置がとられてきたにもかかわらず、なぜグドネール神父に対してはそうではなかったのか、の点について、たとえ、行政のなすところになんらかの裁量性が認められるとしても、その権限の行使は公正でなければならず、一貫性が保持されていなければ法的正義に反するのではないかという疑問は依然として残ります。
1984年2月、私どもは、内閣総理大臣、法務大臣、自治大臣に宛て建議售を提出し、日本が多くの韓国人、朝鮮人の兄弟姉妹に不正と苦しみ、死までも与えた歴史的事実を正直に直視し、この罪の赦しを乞い、回心と償いの精神を心に刻み、信頼と友好の関係の樹立にいそしむためには、まず障害となるものを積極的に除去しなければならないこと、指紋押捺制度がこの障害の一つであること、を訴え、外国人登録法の改正と指紋押捺制度の廃止を強く要望いたしました。
在日朝鮮・韓国人に対する法の運用における差別と不平等とに心を痛め、良心に従い、自分が反対の意思表示をしなければ、かれらに屈辱を与える側に荷担していると判断して外国人登録法の改正を求めて、指紋押捺拒否をしているカトリック宣教師の行為は、信教と良心の自由に根ざす人間的行為と思います。
ゆえに、指紋押捺を拒否する宣教師の良心の自由にもとづく行為を無視し、かれを単に法違反者として扱われること、また、国外退去という措置をとられることにどうしても納得がいきません。
さらに、1984年より私どもがお願いしてまいりました外国人登録法そのものの改正についてなんらのお答えをもいただいておりませんので、ここに改めて、次のことを要望いたします。
イ、指紋押捺と外国人登録証の常時携帯との義務の廃止を含む外国人登録法の改正。
ロ、指紋押捺拒否者に対する在留許可更新と再入国との拒否などの報復措置をとらないこと。
ハ、自治体に対し指紋押捺拒否者の告発を強要しないこと。

日本カトリック司教協議会 社会司教委員会
委員長 白柳誠一