1986年10月12日

抗議文

内閣総理大臣 中曽根康弘殿

9月21日、自由民主党全国研修会における貴殿の発言は、日本は単一民族国家であるという日本社会の実情についてのまったくあやまった認識を前提とした発言でありました。
その直後から、米国において、複合民族国家における少数民族の尊厳を傷つけるものとしてきびしく批判され、非難され続けています。
貴殿は、外交上の配慮からいち早く陳謝の意を表わされましたが、発言の前提となっている「日本は単一民族国家である」という認識をあらためようとはされておりません。貴殿のその態度は、日本社会の差別され、抑圧されている民族的少数者の存在を、国際社会に向けて隠蔽することにほかなりません。
例えば、アイヌ民族の存在についても、明治以来、日本政府は強制同化政策を推し進め、民族の存在と尊厳を侵してきました。その強制同化政策にもかかわらず、アイヌ民族は現に存在しています。そればかりでなく、在日韓国・朝鮮人ほか、国の政策上、日本国の一員として強制的に組み込まれてきたアジア人も存在しています。それをいまさら、日本国内には少数民族はいないというのは、欺瞞もはなはだしいといわなければなりません。
貴殿の米国政府ならびに米国市民への陳謝は、その前提としている日本社会についてのあやまった認識をあらためないかぎり、あやまちをただすことにはならないどころか、国内の民族的少数者をふたたびなきものにすることだといわざるをえません。
カトリック正義と平和協議会第12回全国会議に集まった私たちは、藤尾前文部大臣の近代日韓関係史の真実を歪曲する発言に続く貴殿の発言が、米国のみならず欧州その他の大陸の諸国および日本国内の民族的少数者の尊厳を傷つけるものであることを指摘し、そのことに対する陳謝と右発言の基礎となっている認識の撤回を求めます。
国の最高貧任者として、貴殿は、日本が複合民族国家であるという真実の姿にふさわしいように、従来の国内の民族的少数者に対する政策を抜本的にあらためる責任を負っています。
私たちは、21世紀へ向かう国際社会に生きる世界の実現をめざし、民族差別などあらゆる差別を許さない決意を表明し、貴殿にきびしく抗議いたします。

日本カトリック正義と平和協議会
第12回全国会議参加者一同