1994年10月11日
要請書
―「死刑執行停止」を求めて―
内閣総理大臣 村山富市様
(同内容の文書を、前田勲男法相宛てにも送付)
現在、日本の内外で、国連安全保障理事会の常任理事国入りが取り沙汰され、また、国連平和維持活動(PKO)協力法に基づいての、ルワンダ難民援助のための自衛隊が派遣されています。国際社会のなかで、自らの憲法を堅持しつつ、わが国がどのように動き、働きかけてゆくべきなのか、国民と政治家の一人ひとりが真剣に考えてゆかねばならない時代であると考えます。
1989年12月15日、第44回国連総会本会議は、死刑廃止条約(死刑廃止をめざす市民的および政治的権利に関する国際規約の第二選択の議定書)を採択し、1991年7 月11日、同条約は発行いたしました。この採択に日本は反対投票、そして同条約の批准もしておりませんが、それから3年ほど経過しました本年4月6日、超党派の国会議員による「死刑廃止を促進する議員連盟」の誕生をみています。
私たちは、人権が総てに優先して尊ばれる社会、隣人を愛してゆける社会を切望しています。犯罪者だからといって、排除し切り捨てるのではなく、天が賦与してくださったすべての可能性を信じ、共に生きてゆきたいと希望します。
そのような理由から、私たちは、上記「死刑廃止条約」の批准を期待するものでありますが、その前段階といたしまして、1993年9月21日、最高裁判所第三小法廷判決における大野正男裁判官の補足意見に見られますように、「一定期間、死刑の執行を実験的に一時停止」して、この問題につき国民の間で充分な議論を尽くされますことを願います。
「死刑」は、実に深速な問題を孕んでいると思います。死刑制度存置・撤廃、いずれにしましても、一朝に結論の出せるものではなく、時間をかけて考えてゆくことが必要であると存じます。が、その間に、尊い命―どのような人であれ、神が創造され保っておられます命―が、死刑によって失われますなら、それこそ私たちの深く憂慮するところであります。
死刑の執行を停止し、この問題につきご検討下さることを、要請いたします。
日本カトリック正義と平和協議会会長 岡田武夫