1994年12月29日

 

要望書

 

内閣総理大臣 村山富市殿

 

日本政府は元「従軍慰安婦」問題について、国家として個人補償を行わず、民間から募金を集めて「見舞金」として支給することに決定しました。

私はこの決定を知り、大変残念に思っています。従軍慰安婦制度は、日本軍が組織的で体系的に直接企画して、10万から20万人もの、13歳の幼い少女を含めた女性たちを強制連行して、兵士たちの性的奴隷とした人道に対する犯罪です。彼女たちは同情の対象ではなく、日本の歴史の被害者です。被害に対する正当な賠償がなされるべきだと考えます。

ですから私は、被害者と直接会って彼女たちの要求を聞こうとしない政府のこの決定に反対します。「見舞金」構想を容認することは、国家の責任と国民の責任を故意に混同して、日本がかつて行った戦争犯罪を覆い隠すことに加担することになります。

神がその似姿として造られた人間の尊厳は、何人たりとも侵すことの出来ないものです。人間の尊厳が失われた状態を前にして、キリスト者として「無関心」でいることはできません。

私たちは信仰による知恵を働かせた具体的な行動と祈りをもって、真の国家補償を求めます。

カトリック東京大司教区教区長

枢機卿 白柳誠一