1995年1月10日

意見書

内閣総理大臣
村山富市貴下

日本軍の「慰安婦」問題が社会で騒がれ始めてから5年がたちました。50年前の問題が今になって真相が明らかにされ始め、被害者たちは50年あまりも、韓日両国政府と両国民の無関心の中で、いく歳月の苦痛をなめさせられました。未だに戦争の傷跡は癒されず、いたる所で被害者の訴えが続いています。私は最近、日本政府が日本軍「慰安婦」問題について、国家として個人賠償をせず、民間募金で被害者に「慰労金」を支給する方針を決定したと聞きました。私はこの日本政府の決定に対して深い遺憾の意を明らかにします。日本政府のこの決定は、過去の歴史の清算のために何らの力にもなりえず、アジアとの関係を発展させる上でも、むしろ悪影響を及ぼすばかりです。そして、この決定は日本軍「慰安婦」被害者の踏みにじられた名誉を回復する上でも、何ら意味のない方法と思います。何よりも被害者と関連被害国の国民は、日本軍「慰安婦」問題の真相究明と、しかるべき日本国家からの謝罪、法的賠償を受けることを願っています。
本年1995年は、わが民族が日本の植民地支配から解放されて50年になる年であり、日本の敗戦50年の年でもあります。私は今年がとても重要な年だと思います。それゆえ、今年こそ過去の戦争被害者はその苦痛から解放され、韓日間に、そしてアジア諸国間にある不合理なわだかまりをすべて解きほぐし、日本と韓国、そしてアジア全体が真の解放を迎えられる年になることを祈っています。そのためには何よりも、加害者である日本がこのわだかまりを率先して解かねばなりません。
このわだかまりを解くために私はあなたに以下のことを要求いたします。まず、 日本政府は過去の歴史の真実を明らかにし、その罪を率直に認めて謝罪しなければ なりません。そして国家の責任を回避する「民間募金による慰労金支給」の方針を撤回しなければなりません。ドイツが第二次世界大戦で犯したユダヤ人虐殺の犯罪に対して犯罪者処罰と被害者への賠償を実施し、それを今も続けているように、日本政府は具体的に被害者に対する賠償を実施しなければなりません。また、それだけにとどまらず、こうした犯罪が二度とこの世界で起こらないような教育を行っていかねばなりません。それこそが、日本が国際社会で犯罪国という汚名をそそぎうる方法であり、戦争犯罪について反省し、法的、道徳的に資任をとることをわきまえた国家だという認識をおよぼす道でしょう。そして、それは韓日間、アジア諸国間の平和のための礎となるでしょう。
わが韓国のカトリック信徒と私は、こうした要求に対し日本政府が具体的な実践に応えることを期待します。

カトリック・ソウル大教区長
枢機卿 金寿煥