内閣総理大臣
小泉純一郎 様

2001年6月29日

日本カトリック正義と平和協議会
会長  松浦悟郎司教

総理大臣の靖国神社参拝に対する反対表明

総理大臣は8月15日の敗戦記念日に、靖国神社参拝の意向を明言しておられますが、私たちはこのことに強く反対します。
もちろん、戦争によって、尊いいのちを落とされた方々を追悼し、その方々や御遺族のために祈ることは、人間として当然のことと考えております。しかし、日本を代表する総理大臣が靖国神社に参拝することは、それと全く意味を異にします。
靖国神社がかつての戦争において、戦没者を英霊として祀るということを通して戦死を美化し、国民に戦争を肯定させる中心的役割を果たしてきたことは、周知の事実です。その反省から政教分離の原則を定め、二度と同じ過ちを犯さないようこれまで歩んできたのではなかったのでしょうか。総理大臣による靖国神社参拝は、その歩みを再び「いつか来た道」に戻すほどの意味を持つ重大な過ちと言えます。
私たちは日本帝国軍隊によって侵略され、無惨にも殺されたアジア・太平洋地域の人々のことを忘れることはできません。またその遺族は、自分たちの肉親を殺した人が神として合祀されている場所に日本の総理大臣が参拝することを、どのような思いをもって見るのでしょうか。更に、これまでアジアの人々との和解のために努力を重ねてきた全ての人々にも大きな失望を与えるものでもあります。

憲法上では以下の点について問題であると私たちは考えています。
憲法20条では、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と言われます。総理大臣が靖国神社に参拝することは、この国の宗教活動の禁止条項に明らかに反することになります。
さらに憲法89条では[公の財産の支出叉は利用の制限]が述べられています。玉串料については憲法違反であるという最高裁判例も出ています。総理大臣の靖国神社参拝により、これらの定めに違反することがあるのではないかと懸念しています。
「靖国神社は日本の伝統的習俗である」と主張する人がいますが、霊を祀り、霊を慰める儀式は宗教にしかないものです。戦没者の霊を神として祀る靖国神社は、神社神道という宗教以外のなにものでもありません。現に靖国神社は宗教法人として存在しているのですから、間違いなくひとつの宗教です。
さらに、ひとつの宗教を法律によって宗教でないとするやり方は、思想や信条の問題を法律によって左右する危険な道につながります。また、国家が信仰の世界に介入し、人の霊の中の、ある霊をすぐれた霊、英霊として決定する権利は不当なものです。これも憲法20条によって保証されている信教の自由を脅かすものです。
最後に憲法99条には憲法尊重擁護の義務として、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」、と明記されています。したがって、総理大臣はこの憲法を遵守しなければなりません。これを遵守しないことは、明らかに憲法違反となります。

私たちは、総理大臣が靖国神社ではない他の場所で、日本人だけでなく、第二次大戦でいのちを落とされた名もない戦没者のため、さらにアジア・太平洋地域のすべての犠牲者のために心から祈り、平和への決意を新たにすることをむしろ提案します。そのことこそ日本に課せられた償いのひとつであり、同時に21世紀における世界の平和を築くためにまず必要なことだからです。
私たちはアジアの人々と和解し、大切な友人としての関係を築きたいと心から願っています。一人ひとりの信仰、思想、信条の自由が尊重される平和な社会をつくりたいと望んでいます。だからこそ総理大臣の靖国神社参拝に私たちは強く反対し、その断念を要請します。
以上