内閣総理大臣
小泉純一郎様

有事法制反対の要望書

小泉首相と与党三党は、今国会における有事法制の成立に強い決意を表明されました。
私たちキリスト者は、命の尊厳を守り、互いに愛し合うことから生まれる平和を求める立場から、今、政府が成立させようとしている有事法制に強く反対いたします。

政府は新ガイドライン関連法制定以来、米軍と協力して戦争への体制を着々と整えて来ましたが、今を好機とばかりに、「武力攻撃事態法」修正案・自衛隊法改正法案・安全保障会議設置法改正法案など、いわゆる「有事法制」(戦争法)案を国会に提出されようとしています。この法律は、米国の戦争に全面的に協力することで生じてくる“有事”に備えるためのものであり、それが日本と世界に平和どころか緊張と武力衝突の拡大をもたらす危険をはらんでいます。すなわち、「有事法制」が“有事”を誘発するのです。

日本はかつてアジアの人々を戦禍に巻き込み、自らも唯一の被爆国となりました。その歴史に学び、日本国憲法にある平和主義を手にし、平和の尊さを実感してきました。しかし「有事法制」は、憲法9条における戦争の放棄と武力の行使を禁じる日本国憲法の平和主義の基本理念を犯し、平和を希求する日本とアジア諸国の人々を踏みにじることになります。またひとたび「有事法制」が制定されると、“有事”の名のもとに、憲法が保障する財産権、思想、良心の自由、苦役からの自由など基本的人権が侵されることになります。

私たちは、戦争の加害者にも被害者にもなりたくありません。また人々をそうさせたくありません。そして武力の行使では真の平和を築けないことを歴史から学び、また現在多くの犠牲者を生み出しているイラク攻撃の現状からも痛感しています。
「剣を取る者はみな、剣で滅びる」との聖書の言葉は、争いを繰り返してきた人類の歴史の教訓でもあります。真の平和を願うなら戦争への準備ではなく、戦争を回避する道を見出していくことこそ政治に携わる人の責務と考えます。

小泉首相が私たちの願いに耳を傾け、有事法制廃案の英断を下されますようお願いいたします。

2003年4月21日

日本カトリック正義と平和協議会
会長  松浦悟郎司教