談話 2004年を終えるに当たって
2004年12月14日
カトリック正義と平和協議会
会長 松浦悟郎
2004年もあわただしく幕を閉じようとしています。今年を振り返ると、イラクや北オセチア共和国など、人々の平和への願いを断ち切るような暴力の連鎖の絶えない一年でした。残念ながら、平和への大きな役割を宣言した憲法を持つ日本政府も、ひたすら米国主導の「力を背景にした世界戦略」に追随し、改憲への実績作りとも言える強引な言動を続けてきました。こうした事柄は国の未来に関わる重要な選択だからこそ、これまでのように曖昧のまま誘導していくやり方ではなく、問題の所在を明確にし、すべての人に知らせた上で国民的議論を起こしていくという姿勢が政府に求められます。
一方、なし崩し的に改憲に突き進んでいく政府の動きに対して、いろいろな分野から市民が声を上げ始め、行動する人が増えてきました。特に憲法問題については、大江健三郎氏たちの「9条の会」が各地で大勢の人を集めるなど、関心が高まってきたことも事実です。命を大切にし、平和のために祈り行動しようと宗教者がお互いの違いを越えて集い、連帯し始めたことも喜ばしい動きです。こうした中、各党の考える改憲内容も徐々に明らかになってきています。先日発表された自民党案(朝日2004.11.2)は、その後白紙撤回されたとは言え、かなり深刻な問題をはらんでいることが分かりました。この驚くべき改憲案をしっかり見据えて声を上げていかなければいけないでしょう。主な点は以下の通りです。
まず、陸上自衛隊の幹部がこの改憲案作成に関わったこと。自衛隊は憲法遵守を誓う立場であるのに、政治に介入してきています。最近の文民統制(シビリアンコントロール)を外そうとする傾向もあわせて看過できません。かつての軍部暴走を再び起こさないように作られた仕組みを変えようとしているからです。
もう一つは、「憲法は誰が守るものなのか」という根本的な意味を変えることを打ち出してきました。つまり、近代憲法の歴史が示しているように、日本国憲法は、国家権力が暴走することのないように「国民が国家に課したルール」(99条)であるのに、それを逆転させて憲法を「国民が従うべき行動規範」にしようという狙いなのです。そうすることで個人よりも国家を優先し、国民に義務や責任を負わせていこうとしているのです。平和憲法と対になっている「教育基本法」も同じ発想で変えようとしています。
付け加えるなら、安倍晋三自民党幹事長代理は「集団的自衛権は自然権の一つだから憲法に書く必要はない」(朝日2004.12.8)という全く考えられない主張を表明しています。この論理でいくと、憲法を変えなくても集団的自衛権の名のもとであれば、米国のすべての軍事行動に付き合うことさえ可能であることになります。
さらに、12月10日、政府は武器輸出3原則も緩和すると、いとも簡単な幹事長談話で発表してしまいました。軍需産業がどっと走り出す瞬間です。いずれ日本の高度な兵器がどこかで誰かを殺していくことになっていくでしょう。
以上のような現実は氷山の一角で、もし憲法の歯止めが効かなくなれば、今までとは全く異なった日本の姿が現れ、アジアとの関係にも深刻な影響が出てくることは必至です。残念ながら日本は平和憲法を持ちながら、このような姿にまで変えられてしまったのです。
戦後、日本国憲法が発布された同じ1947年に文部省が出した中学一年生用社会科の教科書に「戦争放棄」について次のように書かれてあります。「(戦力の)放棄とは捨ててしまうことです。しかし、皆さんはけっして心ぼそく思うことはありません。日本は正しいことをほかの国より先に行ったのです。世の中に、正しいことほど強いことはありません。・・・よその国と争いごとがおこったとき、決して戦争によって相手をまかして、じぶんのいいぶんをとおそうとしないということをきめたのです。おだやかにそうだんをして、きまりをつけようというのです。なぜならば、いくさをしかけることは、けっきょく、じぶんの国をほろぼすようなはめになるからです。」(『あたらしい憲法のはなし』童話屋)。
この確信に満ちた思いをもう一度取り戻したいと思うのです。戦争放棄の決意は、同時に武力によらない別の形で世界の平和のために尽くすことをも表明しています。国際貢献を言うなら、何よりも世界の貧困や紛争の根本原因に対して解決を図るために国力をあげて取りくむこと、また、例えば日本のあらゆる分野の技術を集めた「国際協力隊」のようなチームを創設し、国内外を問わず、さまざまな災害や環境、医療の分野で貢献できるような体制作りこそ平和憲法の精神ではないでしょうか。そのためなら、多くの若者も誇りと使命感をもって働くことができます。今一度、平和憲法の本当の精神を選び取っていきましょう。
2004年を終えるに当たって、世界の苦しむすべての人々と、これまで人間の尊厳や平和のために祈り働かれたすべての人々に連帯を表明します。来るべき新しい年に、あらゆる場において解決と和解が生まれ、平和が近づきますように祈りつつ。