2019年11月18日

内閣総理大臣  安倍晋三 様

日本カトリック正義と平和協議会会長 勝谷 太治

 

「政教分離」憲法原則の徹底を求める声明

先ごろ挙行された「即位礼正殿の儀」「大嘗祭」等、天皇代替わりにかかわる皇室祭祀に国が関与し、公金を支出したことに遺憾の意を表します。

日本カトリック司教協議会は、今回の天皇代替わりに関連して、すでに2018 年2月22日に内閣総理大臣宛て「天皇の退位と即位に際しての政教分離に関する要望書」を発表し、「天皇の退位と即位に関する一連の行事にあたって、日本国憲法が定める政教分離原則を厳守し、国事行為と皇室の私的宗教行事である皇室祭祀の区別を明確にすること」を求めました。

ところが政府は、「平成の御代替わりに伴い行われた式典は、現行憲法下において十分な検討が行われた上で挙行されたものであることから、今回の各式典についても、基本的な考え方や内容は踏襲されるべきものである」(2018年4月3日閣議決定)として公費を支出し、三権の長など国家機関の枢要なメンバーも出席させました。

「天皇代替わり」儀式の一部は、天照大神の神勅に由来する神道儀式に即して挙行されました。とりわけ「大嘗祭」は、神道儀式を経て即位した天皇が神格化される儀式として、宗教性を濃厚に帯びていることは政府も認めています(1989年12月21日閣議口頭了解)。また天皇が高い位置から即位を宣言することに「国民」を代表する首相らが下から応える儀式である「即位礼正殿の儀」も「国民主権」原則との齟齬が懸念されます。

本来皇室の私的な宗教祭祀であるさまざまな儀式、とりわけ戦前の日本で、神権的天皇像を国民に知らしめるための儀式であった「大嘗祭」に公金を支出し国が関与することが、日本国憲法の政教分離原則にそぐわないのは明白です。

「政教分離」の本来の意味と役割は、個人の宗教的良心が、国家権力などの外的力によって恣意的に束縛、拘束されないように守ることです。私たちは「大嘗祭」などの天皇代替わり行事に公金を支出し国が関与することが、ひいては戦前の日本社会のように特殊な民族主義、国家主義や軍国主義、さらに差別やヘイトをもたらす不寛容を社会に波及させ、人間の尊厳と人権、自由と多様性、とりわけ宗教的自由が脅かされることにつながりかねないことを危惧します。

カトリック教会は、かつて日本という国が国家と宗教と武力を一体化し、本国のみならず、特にアジアの人々の生存と基本的人権、平和を侵害したこと、またカトリック教会自身も国家神道による天皇の神格化と皇国史観に基づく全体主義に屈服し、日本の軍国化と戦争遂行に協力したことを反省します。そこから私たちは、究極的にはイエス・キリストの愛といつくしみにおいて全人類の一致と交わりが達成されるとの信仰に基づきながら、国の最高法規である日本国憲法が掲げる「政教分離、主権在民、戦争放棄」の基本原則を日本政府が厳守し、それをもって世界平和に貢献することを望んでいます。